小萩は、眼を輝やかし、手をたゝいて喜んだ。
「あなたつて、ほんとに、どういうかた……? こんなこと、いつの間にか、ちよこちよこつとやつておしまいになるなんて……」
「今度は、万事好都合に運んだからさ。しかし、いつもこの通りにいくとは限らないぜ。油断は禁物だよ。みたまえ、あの浅間のスロープ、それから、あの、落
葉松やナラの芽吹きの色……日光は、たつぷりあるし……買物はちよつと不便だが、なに、そのうちに慣れるさ」
二人は、南向きの小さなヴェランダに出て、倚り添うようにして立つていた。
立ち枯れのスヽキの聞から、もうヨモギやアザミが萌黄色の艶やかな葉をのぞかせ、さまざまな小鳥が、耳を澄ますと、空の上にも、谷の底にも、長く、短か
く、競うように啼き交していた。
「いゝかい。あの斜面を削つたところね、あそこへ蜜蜂の箱を並べて置くんだ。もうやがて、岐阜から着く時分だ。着いたらすぐに、フタをあけてやる。する
と、今頃は、そら、道に白い花が咲いてたアカシヤ、このへんは、一番アカシヤが多いから、みんなその蜜をこゝへ運んで来るんだぜ」
「だつて、ほかの花も咲いてるでしよう」
「うん、はじめは多少、まじるけれど、すぐ土地の事情に通じて、ひと色の花の蜜を集めるようになるんだよ。普通、二キロ以上、時によると十キロぐらい先ま
で飛んで行くんだから、たいしたものさ。怠けて腹いつぱいためて来ない奴がいると、番兵がいて、入口で追い返すんだぜ」
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